番組審議会議事録

このページはTBSの番組や放送のありかたを考えるページです。
番組審議会の審議内容を中心に紹介し、皆様からの意見も募集しています。


2004年9月21日(火)開催 / 第469回番組審議会より
2004・アテネ五輪中継 8月22日(日)「女子マラソン」を中心に

議題

報告事項
 「放送と青少年に関する委員会」からの要請について
審議事項
 2004・アテネ五輪中継 8月22日(日)「女子マラソン」を中心に
 その他

出席者(敬称略)

委員長生田正輝 
副委員長沼田早苗 
委員池田守男 音 好宏 篠塚英子 寺島実郎 ねじめ正一 山藤章二 横澤 彪 

局側出席者

 井上社長・若林副社長

 財津常務取締役・石原取締役編成本部長

 岡元報道局長・田代編成局長

 田澤番審事務局長

 TBSスポーツ三角制作本部長・守屋プロデューサー

報告事項

◇冒頭井上社長より、株主総会後の役員昇格及び人事異動、10月1日発足するテレビ新会社の概要について説明があった。

◇事務局より、血液型性格診断の取り扱いに関する「放送と青少年に関する委員会」の要請(7月8日付)、これに対するTBSの回答(8月12日付)について報告があった。

◇田代編成局長より、10月編成の概要について報告があった。

番組内容について

◇8月13日から29日まで、17日間に亘って開催されたアテネ五輪では、日本は金16個をはじめ過去最多の37個のメダルを獲得するなど、空前の「メダルラッシュ」に沸いた。TBSでは期間中メインキャスターに中居正広・久保純子を起用。中継枠7枠・ハイライト枠1枠、延べ約38時間の大型編成を組んだ。
中でも大会の華・女子マラソンはTBSが独占放送。野口みずきら日本人3選手の調整に密着したドキュメンタリーをはじめ、東京のスタジオに世界陸上アテネ大会のマラソン勝者鈴木博美、現地に有森裕子・増田明美を迎えて、苛酷なコースの見どころを判り易く実況・解説した。結果、野口みずきが前回の高橋尚子に続く金メダルに輝き、22時54分〜26時59分という深夜帯にも拘らず、平均19.2%、ゴール付近の瞬間最高29.2%という高視聴率を記録した。

◇日本全体が極端なスポーツナショナリズムに傾斜して、「がんばれ日本」一色だが、「自分しか見えない、見ようとしない」というところから、もう少し視界を広げるスポーツ番組の作り方があって良いのではないか。例えばイラクのサッカーチームが予選を勝ち抜いていったプロセスなど、本来より共有すべき情報を伝えれば深みが出たのでは。特に女子バレー・男子野球なども、興奮した割には日本勢が惨めな結末だったことを考えても、熱くならず離れて見る視点も必要だ。TBSの五輪中継を成功と評価した上で、次の課題として提言したい。
今の野球再編報道にしても、「選手は可哀想だ、オーナーは悪役だ」というお涙頂戴の図式ばかりだが、例えば観客動員数の体系的な分析とか、スポーツジャーナリズムはもう少し「思想と哲学」が要るのではないか。

◇マラソン中継に必要なのは、推測ではなくて「今苦しいのか、否か」「このままいけるのか、否か」など、正確な思いを伝えてくれる解説者の存在。有森さんは苦労人だけあって、シンプルな、余り力の入っていない語り口ながら、端々にこちらにぐっと迫ってくる言葉がある。有森さんの言葉を聞いていると、神経がどんどん細かくなってくる。野口さんの心理がとても良く判り、最後の2位の追い上げにはドキドキした。中継では西日が妙に光が変わってきたり、過酷に見えたりと、「光のマラソン」の様に思えた。マラソンとは凄く微妙なスポーツであり、微妙な言葉で語る必要を感じた。

◇メインキャスターは、余り個性が発揮できなくて、もう一つだったと思う。他局に比べても穏当というか、穏やかな司会ぶりだった。女子マラソンでは、前半の3選手の紹介が随分密着して、事前取材が行き届いたドキュメントだった。有森さんはテンポがゆったりめで、苛々する時もあったが、自分なりの解説をしていたし、アナウンサーも初々しくて、大変良かったのではないか。

◇実況アナに、話芸や薀蓄を聞かせようという処がなく、ある種の匿名性・黒衣感があり、いい意味でレースに没頭出来た。五輪やW杯など国際的大スポーツ大会の意義は、今までの平和で素朴な時代においては、「壮大な娯楽、日常の中の祭」で十分だった。しかし、テロへの恐怖・凶悪犯罪・政治経済の閉塞感など諸々のバッドニュースに囲まれている現代の日常の中で、今回のアテネのような壮大なスポーツ大会を見ると、束の間、「精神の治癒」を覚えた。放送事業者が、ただ娯楽提供者ではなくて、精神神経科の医師みたいな役割も付加されてきているように思う。オリンピックが終わった後、ある種の「そこはかとない不安」というか、もっと濃厚な不安を感じた。

◇マラソンというのは「1つの人生そのもの」だと思う。日本の3選手中心の紹介になるのは致し方ないが、ラドクリフ、ヌデレバら、世界のマラソン界を代表する選手たちのバックヤード的なものも、事前取材で織り込めば、より広がりを持ったのではないか。特に途中で棄権したラドクリフの痛ましい姿を見ながら、マラソンは人間的な側面が強調されるだけ、いろんな角度からの情報があれば大変有り難いと思った。
五輪も毎回団体競技が多くなってきて、観る者も極端に戦う形にのめり込み、ナショナリズムに傾斜しがち。放送の姿勢も、マラソンなどの個人競技、選手個人にウエートをかけて行く必要があると思った。

◇日本選手のことだけが前面に強く出過ぎていた。実際に沢山の人が競走している中、日本人3人だけ注目しろというのは、2時間半近くの流れの中では無理がある。もし野口さんたちが上位に入っていなかったなら、急遽、他選手に関するコメントを想定しなければならなかった訳で、その点ラッキーだった。中居さんの司会は世界陸上の時の織田さんよりはソフト。ただ、スタジオに鈴木博美さんと有能なランナーを迎えているのだから、久保さんを含め、司会がもう少し振ってコメントを引き出せればと思った。

◇椎野アナ、有森さんとも絶叫型ではなく非常に良かった。有森さんには、如何にも走っている人だからこそ判る話があった。久保さんは手元に原稿があるときは聞き取りやすいが、アドリブなど若干はしゃぎ過ぎだったのは民放馴れしていないからか。昨年の世界陸上では、海外選手のエピソード、人間ドラマが豊富だった。今回は運よく日本のメダルラッシュだったから日本中心になったのか。逆に、日本勢不振でも、人間ドラマをうまく提示できることが、日本のスポーツを中継していくときの1つの可能性になっていくのでは。

◇スタートしてから2時間あたりから、1位と2位の差が30秒といったテロップがすっと出た。普通映像で見ていると、レンズによって凄く遠くにいたり、望遠で撮ったりしていると凄く近くにいたりして、距離感覚が判らないのだが、距離計のスーパーによって、1位と2位の差が大変良く判った。

◇スポーツナショナリズムは、ヒットラーの時代からあることで「仕様がないのかな」と思う。最近はむしろコマーシャリズムの方がおかしいんじゃないか」という気もしている。
スポーツはそれ自体が巧まざる1つの「ドラマ性」を持っており、キャスターの喋りより、映像をきちんと出せばいいという意見は常にあるが、今回は司会が余り邪魔にならず、余計なものが入らなくて良かったのではないか。事前の選手紹介などとは別に、マラソンの流れそのものに余計なものは入らない方が良い。


番組審議会事務局