番組審議会議事録

このページはTBSの番組や放送のありかたを考えるページです。
番組審議会の審議内容を中心に紹介し、皆様からの意見も募集しています。


2004年5月17日(月)開催 / 第467回番組審議会より
月曜ミステリー劇場「横山秀夫サスペンス・ペルソナ(偽り)の微笑」について

議題

報告事項
 報道特別番組「告白」の不適切な表現について
 訂正放送について
審議事項
 月曜ミステリー劇場「横山秀夫サスペンス・ペルソナ(偽り)の微笑」について
 その他

出席者(敬称略)

委員長生田正輝 
副委員長沼田早苗 
委員池田守男 音 好宏 篠塚英子 寺島実郎 横澤 彪 

局側出席者

 井上社長・若林常務取締役

 財津常務取締役・城所常務取締役

 児玉常務取締役・岡元報道局長・田代編成局長

 玉置編成考査局長・田澤番審事務局長

 木村プロデューサー

報告事項

◇3月5日(火)放送・報道特別番組「告白」(第465回番組審議会にて審議)における「不適切な表現」について、井上社長より発言があった

◇事務局より、5月11日(火)放送の一連のニュース番組における、「よど号容疑者メンバーの妻に逮捕状」報道に関して、訂正放送実施(翌12日)の報告があった。

番組内容について

◇5月3日(月・祝)午後9時30分〜11時24分放送(野球中継延長のため30分繰り下げ)。
『陰の季節』など社会派警察小説で知られる横山秀夫の原作をドラマ化(TBS・アミューズ・コブラピクチャーズ製作。監督長谷川康・脚本久松真一)。幼少期に犯罪に巻き込まれて以来、心の底から笑うことが出来なくなった矢代刑事(金子賢)が、青酸カリを使った殺人事件に隠された真実に迫る。矢代と同じような境遇の青年・阿部勇樹に高杉瑞穂、捜査一課二班の冷徹な班長・楠見に段田安則。矢代と勇樹、楠見という3人が織り成す静と動の感情が激しくぶつかり合う。

◇横山作品の魅力は、緻密なストーリー展開と、登場人物の丁寧な心理描写。その点、今回の作品はワキ役は演技派揃いで状況設定が巧く展開していたが、主役の金子賢が食い足りない。真犯人役の高杉瑞穂との最後の尋問シーンなど、緊迫感より若干説明的になり過ぎ、勿体無かったかな思った。
横山作品はドラマ化し辛い面もあるだろうが、可能性を秘めた作家であり、今後もますます挑戦していって欲しい。

◇ドラマとしては、ややダレ気味で、もう少し切り替えにテンポが欲しい。
作品のポイントは「子供にも殺意があるか」。金子賢の矢代刑事が少年時代、自分の声を誘拐犯の脅迫テープに利用されてしまい、それを知られた妹に殺意を抱いた過去がある。だから容疑者にも殺意があるという。一番のドラマ性は、最後の尋問の場面ではなく、真犯人が父親に殺意を持ったときの親子関係など、皆「家族」に収斂されていくだろう。矢代刑事兄妹が、最後の妹の結婚式のあの兄の手紙だけで和解する、あんな生易しいものではない筈で、ドラマ「砂の器」の最後の父子再会の様な「家族の物語」の仕掛けがないと、「もう一回観よう」とは思わない。

◇登場人物3人全て「暗い過去」を背負っているという設定は、見ていて社会全体の暗さを非常に感じさせられたが、最後の妹との心の和解が一つの救いだった。願わくば、もう少し具体的に兄妹の「新しい人生の出発」が描かれれば。
ドラマとはいっても、青少年への影響も考えて、子供が本人の知らぬ間に間接殺人・誘拐に利用されるという設定も、慎重に扱って欲しい。今後はサスペンスドラマに限らず、「家族の絆」をドラマのメッセージとして発信して欲しい。

◇甘口ドラマが多い中で、「クオリティー」に拘った2時間枠だと思った。主役の金子賢は、新鮮だが上手いのか下手なのか判らない処があり笑えたが、複雑な演技が要求される処は、かなりキチンと出来ていたと思う。「家族の絆」という、ミステリーの中で潜っている部分を丹念に救済して、エンディングのところに持っていったのは、テレビドラマの作り方としては非常に丁寧で良かったと思う。

◇テレビミステリーというと「御当地温泉シリーズ」というイメージの多い中、腰の入った良い作品。しかし、1つの殺人事件の背景には、ある「社会性」「時代性」が必ず横たわっている筈。松本清張の描いた、日本の美しい「ふるさと」の裏側の怖さ。横溝正史の「八つ墓村」のような、戦後まもなくの日本の地方色や復員兵などの日本の過去。それに比べてこの作品は、8歳の少年の、実は意外に怜悧な判断が興味になっているものの、ストーリー性とか、「家族」など深い問題への提起を感じさせない。
この枠で挑戦するなら、それ位までの作品が出来そうに思うので、敢えて提言したい。

◇「笑顔」の背後の心理を通して、人間模様が徐々に浮かび上がり引き込まれて見た。名所旧跡をバックにしてのありきたりでなく、クライマックスの尋問シーンはゲーム感覚というか、あり得ないとは思いつつ、面白い進め方だと思った。役者の演技が見えて、舞台を見ているよう。舞台だと表情の細かいところが見えないが、舞台とテレビの良い処を合わせて作った様なドラマで、大変好感が持てた。

◇「温泉御当地」物なら、「水戸黄門」同様の気楽さがあって、笑って観ていられるのだが、この作品は暗く、複雑に「持って回っている」というのが第一印象。観ていて大変苦痛で、「最後に何か残ったかな」というと物足りなさがある。CMの入れ方、タイミングにも一考が必要だ。


番組審議会事務局