番組審議会議事録

このページはTBSの番組や放送のありかたを考えるページです。
番組審議会の審議内容を中心に紹介し、皆様からの意見も募集しています。


2003年10月20日(月)開催 / 第460回番組審議会より
テレビ50周年ドラマ特別企画「さとうきび畑の唄」
21時00分〜23時39分

出席者(敬称略)

委員長生田正輝 
副委員長沼田早苗 
委員長部日出雄 音 好宏 篠塚英子 山藤章二 横澤彪 

局側出席者

 井上社長・若林常務取締役

 財津常務取締役・城所常務取締役

 児玉常務取締役・岡元報道局長・田代編成局長

 田澤番審事務局長/編成考査局長

 小田TBSエンタテインメント社長

 八木プロデューサー

番組内容について

◇平和の尊さを静かに訴える名曲として、多くの人々に愛されている「さとうきび畑の唄」。
今回は森山良子の名唱をモチーフに、明石家さんまを主演に起用してドラマ化した。
舞台は太平洋戦争下の沖縄。那覇で慎ましく写真館を営む平山幸一(明石家さんま)一家を軸に、唯一の地上戦に巻き込まれた沖縄の人々の悲劇、その中で最後まで明るさと希望を失わず生きた家族の姿をスケール豊かに描いた。
視聴率も26.4%を記録、番組ホームページには若者を中心に共感の書き込みが相次いだ。
また、9月のギャラクシー賞も受賞している。

◇とても気持ちの入った立派な作品で、戦争の悲惨さと家族の問題を考えさせる機会を与えてくれた。脚本も大変優れていたと思う。

一方で、明石家さんまさんの「明るさ」をどう評価するか。昔の「私は貝になりたい」のフランキー堺さんに比べると、浮き気味というか、「ちょっと無理っぽい明るさではないか」という疑念もある。しかし、逆に見終わってみると、その明るさがこのドラマを非常に興味深いものにしていた要因だったかなとも思う。
2時間半以上の放送時間も、もう少し短い方が、より良かったかなという気もする。

◇これまで、喜劇人がシリアスな演技に挑戦する場合、「ドラマの中では笑いを捨てる」というのが暗黙のルールだった。そこに、意外性と、笑芸人の演技力が重層化され、観る者にインパクトを与えるからだ。ところが今回、さんまさんは、笑いを捨てず、笑芸人の素顔をチラリチラリと覗かせる。「悲しいばかりの反戦ドラマ」だと、2時間半、若い視聴者が、まずついてこない。まことに風通しのいい、好感度の高いタレントを配することによって引っ張っていく作劇術に、自分の固定概念が見事に覆された快感を覚えた。

但し、今回のさんまさん起用成功で、今後ますますバラエティーとドラマとドキュメントの境目が無くなり、タレント、キャラクターの時代が濃厚になって来るだろう。制作者側が相当手綱を締めないと、「タレント野放し状態」の世界になってしまう惧れがある。それを巧くコントロールしたのが、今回の作品ではないか。

◇技術スタッフが実によく頑張った。炎上シーンなど大変な迫力で、余程スタッフの人たちが隅々まで神経が行き届き、気持ちが一つにならないと、あれだけの場面はできないと思う。そして何より、「戦争を知らない若い世代に戦争を知らしめた」ということ。

ネットの書き込みを見ると、「自分たちが知らずに享受していた平和と豊かさについて、改めて考えさせられた」という意見が目立ち、大成功と言って良いのではないか。

◇登場人物が皆反戦を語っているが、実は当時「そんなに容易に反戦が語れる時代状況ではなかった」ことこそを伝えなくてはいけなかったのではないか。歴史的に見ると、沖縄であるがゆえに、大和(日本本土)への忠誠心を示さんがために、多くの悲劇が生まれたという背景が、ドラマからは余り読み取れなかった。事実関係でも、「6月23日は戦争が終わった日」としているが、正しくは「日本軍が組織的抵抗を終わらせた日」で、その後も悲劇が山ほど起こっている。時代考証・風俗考証も疑問が多い。さんまさんの役は関西出身という設定なので良いとして、沖縄出身の仲間由紀恵さんを除く多くの人々が江戸の言葉=標準語で喋っているなど、もう少し配慮があれば、ドラマにのめり込めたかと思う。

◇毎日テレビをつければ戦争のニュースばかり。それを「自分たちに関係ない」と捉える若者が多い中、「今、この時代になぜこういう企画をするか」が非常によく出ていたと思う。

こういうことは教科書なんかでは駄目で、映像の効果が非常に生きていた。
地上戦で多くの犠牲者を出した沖縄では、反戦をテーマに安易にドラマ化されることに嫌悪感がある。沖縄の人たちがこのドラマをどう見たのか、非常に知りたいと思った。
私自身、このテーマ・ストーリーでは物足りないと思ったが、映画館や劇場と違い、家庭の中で子供から大人まで共有するテレビドラマの場合、余り残酷な表現も出来ず、「広く薄く」という特性から、「これが限界かな」と思った。そうしたギリギリの線で成功した作品だと思う。

◇一家が写真館ということで、家族で写真を撮るとか、子供が生まれたときに写真を撮る。
それが結果的にはお父さんの遺品になってしまうなど、設定が生きていた。デジタルカメラ全盛で、紙に残したり、プリントすることが少なくなった今日、今回のようなドラマ作りも難しくなっていくだろう。
さんまさんの「戦争をするために生まれてきたのではない」などの言葉がとても耳に残る。
いつもテレビに出ているタレントだからこそ、ドラマというよりも、さんまさんの言葉として若者に自然に受け入れられたのではないか。

◇戦争の悲惨を実際に体験した者として、戦争映画は自ら見ないし、むしろ逃げたいという思いが強い。しかし今回はその暗い面・嫌な面がさんまさんによって救われ、最後まで観ることが出来、感心した。たしかに軍隊生活の描写などおかしい点もあるが、これはドラマなのだからそれで良いと言える。命の大切さは、生き延びてこそ判る。声高に反戦を唱えるのではなく、むしろジワッとこのような形の方が、若者に訴える効果が大きいのではないか。

◇このほか、複数の委員から、「こうした良質の作品を、中学・高校などの教育現場でビデオ視聴してもらうなど、もっと活用できないか」との提案があった。


番組審議会事務局