番組審議会議事録

このページはTBSの番組や放送のありかたを考えるページです。
番組審議会の審議内容を中心に紹介し、皆様からの意見も募集しています。


2000年1月17日(月)開催 / 第423回番組審議会より
ハイビジョン番組『東儀秀樹inトルコ〜千年末の音』
17時1分〜18時1分
14時〜15時 再

出席者(敬称略)

委員長秋山ちえ子 
副委員長内田健三 
委員生田正輝 伊藤宏 猪口孝 兼高かおる 瀧大作 竹内宏 沼田早苗 ねじめ正一 古橋廣之進 山藤章二 

◇ハイビジョン番組を家で見ると、上と下が切れるが、今日ここで見ると、すごく雄大に見える。初期のカラーテレビができたときに、感動したのが懐かしい。CMがないと、こういうふうになるのか。立つ時間がなくなるが、とても良い気持ちで見られる。

◇<担当プロデューサー>TBSのハイビジョン番組は、BS放送の9チャンネルで金曜の夜にゆっくりとした時間を過ごしたい大人を対象にしている。私は、聖徳太子の時代から天皇の前で雅楽を奏でている東儀家、東儀秀樹の世界観を表現する舞台としてトルコを選んだ。

◇古くから日本で培われてきたような宇宙観とか、哲学とか、そういうようなものを、篳篥(ひちりき)というものに託して、その音色によって呼び起こされるような雰囲気が、非常に良い。ドキュメントであるか、何であるか、つかみどころがなく、何だかよくわからないが、日本人の根源にあるエトスというようなものを、あの画面から受けた。私の日本人的な感覚からそう感じた。

◇トルコには数回行っているが、雅楽と結びつくところがどこにあるのかな。朝のコーランは大変すばらしいが、朝の雑踏とか、においとか、通りの音とか。何となくもっと他に良いところがあのではないだろうか。洗濯物とか、機織りの音とか、そういうもので結びつけるというのは、どうも無理かなという感じがしてならない。

◇雅楽の源は中国で言ったら、隋とか、唐で、当時はトルコ系とか、ペルシャ系民族が強かった時代だから、プロデューサーの第六感みたいのが結構正しいところもあるのではと思う。雅楽というのは、何かフワーッと上がって、あとはどうなるのかわからない。トルコの音楽と、似ているような気もする。服装もパーッとなっているとか、ずっと見てみると、日本の古代とパタンがすごく似ている。

◇日本人というのは、大体外国に行くと、卑屈になったりするが、東儀は堂々として武者修行している武道者みたいに凛として、美しかった。これは特殊な伝統を背負った男のアイデンティティーの自信なのだろう。アイドルの写真集のように非常に美しく撮ってあげている。芸術作品であると同時に、何か日本人論を感じた。

◇狂言にしろ、能にしろ、今の古典音楽をやっている世代のほかの若い人たちは、皆ロンドンぐらい留学して、堂々と自分の力量を知っている。古い世代が思うように、日本人はおどおどしていない。別に東儀だけが、これだけの番組をつくれる人ではないし、東儀を出すんだったら、もう少し東儀の持っているものを出したい。ところが、今回の作品は、ドキュメントでも、旅でも、音楽でも、東儀でもない。漠然としている。

◇東儀の音は好きだから、大変感動して見ていたし、トルコも行きたいと決めた。やはり視聴率に縛られないと、こういう番組ができるのかな。何か原点に戻ったような気がしながら見ていた。カラーテレビが出た頃は、ディレクターの思いだけが出るみたいな番組を作っていた。それがスポンサーと視聴率に取り込まれ、たちまち、普通の映像の中に取り込まれて行った。ハイビジョンは、カラーテレビとは違った奥行きが、何かあるような気もする。このような番組が、果たして在り得るのか、なくなるのか、これから制作する人に突きつけられる問題だと思う。

◇以前、民放は、「1波しかないから、良い番組ができないのだ」と盛んに言われた。今回、民放も、このような形でいろいろな波を持ち得ることになったら、確かに良い番組がつくれるだろう。この『東儀秀樹inトルコ〜千年末の音』のような番組を育てて頂きたい。普通のテレビでは、このような番組はできない。


番組審議会事務局